解決事例SOLUTION EXAMPLE

2019.07.01

治療費の打ち切りを受けたものの併合14級の後遺障害が認定された事例

ご相談内容

解決方法:示談
受傷部位:頚椎捻挫,腰椎捻挫
後遺障害等級:併合14級
取得金額:約330万円(自賠責保険金を含み既払い治療費を除く金額)

Mさんは,自動車を運転していて,信号待ちのために停まったところ,後続車両に追突されて,けがを負われました。
その後,Mさんは,治療のため通院されましたが,治療開始の早い時期において,相手方保険会社から治療終了の時期について質問を受けるなどされていたため,不安を感じながらも治療を続けられていました。
しかし,Mさんは,治療期間が3か月を経過した時点で,相手方保険会社から治療費の支払の打ち切りを示唆され,そのときに保険会社から受けた理由の説明は,主治医のMさんに対する説明と異なっていたため,対応に困って,当事務所に来所され,受任に至りました。

解決方法

Mさんのけがについては,事故後3か月が経過した時点でも,主治医の見解として治療の継続が必要という状態でしたが,相手方保険会社からの治療費の支払いが打ち切られたため,その後は自費での通院を行わざるを得ませんでした。
そのため,Mさんは,健康保険を利用して,支出金額を抑えながら通院を続けましたが,症状固定の時点で,疼痛やしびれが残存しました。
そこで,自賠責に対する被害者請求を行うことにして,Mさんと弁護士とで詳細な打合せを行った上で,主治医の先生に後遺障害診断書を作成して頂きました。
その結果,自賠責からは併合14級の後遺障害等級の認定を受け,相手方保険会社が支払を行わなかった治療費等のほか,後遺障害による損害も含めて,相手方保険会社に請求して示談交渉を行いました。
示談交渉では,後遺障害逸失利益などが争われましたが,最終的には,ほぼ裁判基準による計算と同じ金額の提案を受けることができましたので,Mさんの希望に基づいて,裁判前に示談を成立させて,解決することができました。

治療の必要性と相当性の問題について

交通事故による損害賠償請求においては,法律上,事故との間で相当な因果関係が認められる治療が損害賠償の対象となり,実務上は必要かつ相当な治療に限り損害として認定されます。 そのため,相手方からは,既に必要な治療は終わっているなどとして,治療期間の一部について,治療費の支払いの要否が争われることがあります。 特に,加害者が保険対応を行っており,加害者契約の任意保険会社が治療費を負担しているときには,保険会社がこのような理由により治療費の支払いを打ち切る形で,問題が顕在化することがあります。 実際に通院を行った治療期間は,後遺障害の認定の有無に影響を与えるほか,実務上は,通院期間からけがの重さを推定して慰謝料等の損害額を算定することが多いため,損害全体にも影響がありますが,他方で,仮に必要な治療は既に終わっていて,それ以降の治療は必要かつ相当な治療ではないとすれば,その後の治療については損害額の算定において考慮されないことになりますから,治療の要否の検討には難しい問題があります。 本件では,相手方保険会社の担当者による説明には合理的な理由が見当たらず,主治医の意見は治療を継続するべきというものであって,このほかに弁護士が聴取したMさんの受傷内容や症状からも治療の継続が必要であると判断できましたし,Mさんには経済的な余裕があり,自己負担で治療費を支払うことができる状態であったため,Mさんとも協議の上で,自己負担により症状固定まで通院を継続する方針をとることにしました。 その後,Mさんは症状固定に至りましたが,自賠責保険金の請求手続において,自賠責保険からもMさんの治療は症状固定日まで必要であったことを前提とする認定を受けることができました。 このような未払いの治療費の問題については,最終的に裁判で決着をつけるほかない場合も多いのですが,本件では,自賠責から有利な認定を受けることができたこともあり,示談交渉の段階で,症状固定日までの全治療期間について損害賠償の対象に含まれるものとして,支払いを受けることができました。

後遺障害等級について

症状固定となって治療が終了した時点で後遺障害が残存した場合には,自賠責に対して,後遺障害等級の認定を求めることになりますが,どのような症状に対して等級認定されるかについては,自賠法やその施行令などにより定められています。 自賠責の等級認定は,原則として,書面審査により行うため,申請の時点で,どのような後遺障害について認定される可能性があるかを検討し,その認定を受けるために必要となる資料を準備しなければなりません。 その準備のため,弁護士が,症状固定直前の時点でMさんと面談して打合せを行い,残存している症状の詳細について聞き取りを行ったところ,Mさんには,受傷した部位を中心に疼痛やしびれが残存しており,特に右手指から右肩にかけてのしびれが強い状態となっていました。 そこで,弁護士は,必要となる検査や診断事項についてMさんに説明し,これらに基づいて,Mさんは主治医から症状固定の診断を受けて,後遺障害診断書を自賠責に提出することができました。 その結果,自賠責の認定では,頚椎捻挫後の頚部痛,右上肢しびれについて14級9号,腰椎捻挫後の腰痛の症状について14級9号が認定され,これらを併合して,併合14級との判断が示され,Mさんの症状に合致した適切な後遺障害等級の認定を受けることができました。

逸失利益等について

後遺障害が残存した場合,これにより労働能力が低下し,今後,収入が減少するはずの部分についても,後遺障害による逸失利益として損害賠償の対象となります。 本件では,Mさんが事故後も休業することなく仕事を続けられていたため,後遺障害が仕事に与える影響の有無と程度が問題となりました。 しかし,休業の有無の問題は,症状固定日までという比較的短い期間について休業がなかったに過ぎませんし,その間の勤務においてMさんの労働能力が従前よりも落ちていたことは明らかであり,症状固定後の長い期間を見れば労働能力の低下が発生するのは確実であるといえる状態でした。 また,Mさんは同居の家族のために家事もされていましたので,このような家事従事の負担については,女性の平均賃金により計算した上で後遺障害による逸失利益として検討する必要がありました。 そこで,本件においては,より金額が大きくなる女性の平均賃金により逸失利益の算定を主張し,示談交渉を行った結果,最終的には,裁判基準どおりの逸失利益の賠償を受けることができました。

弁護士より一言

本件では,相手方保険会社から治療費の支払いを打ち切ることが示唆された状態でご来所されました。治療の相当性や必要な治療期間などの問題は,判断が難しいことが多く,対応に苦慮されることが多いと思います。
このような場合であっても,本件のように,弁護士にご相談頂き,今後の見通しを把握した上で,適切に対処することが重要になります。
Mさんの場合も,対応に困られて当事務所にご依頼を頂きましたが,面談による打合せ等を通じて症状を的確に把握できたこと及びその後の見通しを正しく持つことができたことによって,最終的に,適切な内容で解決することができました。

弁護士:山本直樹

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