解決事例SOLUTION EXAMPLE

2021.03.01

素因減額のある案件で交渉により賠償額を増額した事案

ご相談内容

解決方法:示談
受傷部位:脊椎
後遺障害等級:7級4号
取得金額:1600万円(既払金約2000万円を除く)

解決方法

Bさんは,平成27年の事故により,中心性脊髄損傷を受傷し,平成29年に症状固定と診断され,自賠責より7級4号の後遺症障害等級の認定を受けました。

その後,相手方保険会社と賠償額について交渉されていましたが,平成31年2月ころには相手方保険会社からは素因減額の主張が行われ,Bさんは相手方保険会社から,既払金約2000万円を除いた390万円を支払うとの示談提案を受けました。

Bさんは,提示内容に関する説明に納得ができなかったことから,当事務所に相談に来られて,平成31年4月ころ,受任に至りました。

当事務所の担当弁護士が,資料を集めて事案の内容を検討したところ,後遺障害等級については問題がなかったため,相手方保険会社との間では,各種慰謝料の金額,後遺障害による労働能力喪失期間,素因減額の有無を中心に,金額を争うこととして,当方から対案提示を行いました。

その後,弁護士が相手方保険会社と交渉を行い,素因減額に関する最高裁判決などにも触れながら主張を行った結果,裁判による認定を受けた場合よりも有利と考えられる水準での損害賠償額により示談して,本件を解決することができました。

これにより,当初は約390万円(既払金を除く)の提案だった解決金は,交渉の結果,1600万円(既払金を除く)となり,1000万円以上増額しました。

各種慰謝料について

損害賠償請求においては,交通事故によりけがをしたことによる精神的苦痛に対しては入通院慰謝料を,後遺障害が残存したことによる精神的苦痛に対しては後遺障害慰謝料を,それぞれ請求することができます。 本件では,当初,入通院慰謝料及び後遺障害慰謝料について,裁判基準より低い金額で提示が行われていました。 そこで,当方より,入通院慰謝料については,実際の入通院日数及び通院期間により,後遺障害慰謝料については認定された後遺障害等級により,それぞれ裁判基準による支払を求めた結果,慰謝料については当方の主張どおりの内容で示談が成立しました。

後遺障害逸失利益における労働能力喪失期間について

交通事故によるけがの結果,後遺障害が残存した場合に,被害者は,それによって得ることができなくなった将来の収入について,損害賠償を求めることができます(後遺障害逸失利益といいます)。 そして,後遺障害逸失利益は,基礎となる被害者の収入,後遺障害の程度に応じた労働能力喪失率,労働能力が失われる期間(これを「労働能力喪失期間」といいます)に基づいて算出し,中間利息を控除する方法により計算を行います。 裁判基準では,原則として,労働能力喪失期間は67歳までを基準として(つまり同年齢で退職することを前提として)計算するのですが,年長者については,例外として,平均余命の2分の1により計算することができる場合があります。 本件では,67歳までの期間よりも,平均余命の2分の1の期間の方が長かったため,弁護士が,被害者の勤務先の就業規則の内容や,定年後の再雇用制度の存在,定年後であっても再就職が容易な職種であること,そのための資格の認定も受けていることなどを調査し,これらに基づいて,平均余命の2分の1により計算するべきであることを主張しました。 その結果,当方の主張を前提とした金額により,示談を成立させることができました。

素因減額について

交通事故によるものを含めて,不法行為に基づく損害賠償請求においては,被害者の既往症などが損害の発生や拡大に寄与したとして,加害者の負担するべき損害賠償額が減額される場合があります(これを「素因減額」といいます)。 このような素因減額に関しては,これまでにも最高裁判決や下級審判決において様々な判断が行われており,例えば最高裁平成4年6月25日判決(民集46巻4号400頁)は「被害者に対する加害行為と被害者のり患していた疾患とがともに原因となって損害が発生した場合において、当該疾患の態様、程度などに照らし、加害者に損害の全部を賠償させるのが公平を失するときは、裁判所は、損害賠償の額を定めるに当たり、民法七二二条二項の過失相殺の規定を類推適用して、被害者の当該疾患をしんしゃくすることができるものと解するのが相当である」として素因減額を認めていますが,最高裁平成8年10月29日判決(民集50巻9号2472頁)は,「被害者が平均的な体格ないし通常の体質と異なる身体的特徴を有していたとしても、それが疾患に当たらない場合には、特段の事情の存しない限り、被害者の右身体的特徴を損害賠償の額を定めるに当たり斟酌することはできないと解すべきである」として,素因減額を否定しています。 本件においては,被害者の中心性脊髄損傷に関して,相手方保険会社より,被害者に既往症があるなどとして,素因減額により損害額のうち3割を減額するべきとの主張が行われました。 これに対して,当方からは,前記の最高裁の判断から,素因減額が認められるためには,①被害者が事故前に疾患を罹患していたこと,②それが疾患に該当すること,③被害者に対する加害行為と被害者のり患していた疾患とがともに原因となって損害が発生したこと,④当該疾患の態様、程度などに照らし、加害者に損害の全部を賠償させるのが公平を失することがいずれも必要になると主張して争いました。 しかし,本件については,弁護士が収集した診断書その他の医学的な証拠を見る限り,裁判の場合には相当程度の素因減額が予想される事案であったことから,裁判によって解決するのではなく,裁判外において,双方の主張の間を取って示談を目指す方針をとりました。 その結果,相手方保険会社も当方の主張を受けて素因減額の割合を再検討し,中間的な割合ではあるものの,当方にとって有利かつ適正な金額により,示談することができました。

弁護士より一言

本件は,最終的には双方の主張の間を取る形で示談を成立させることになりましたが,当初の提案金額よりも賠償額を1000万円以上増額することができました。

本件の最大の争点である素因減額は,医師による医学的な判断と,裁判官による法律的な判断とが交錯するため,個々の事例に対して割合を判断することが難しい問題なのですが,弁護士は過去の裁判での経験から個々の判例における判断内容や,Bさん自身に関する具体的な事実を指摘して主張を行うことができ,他方で相手方保険会社にとっても判断が困難であったことから相手方も譲歩し,最終的に,当方に有利な示談を成立させることができたものと思います。

また,Bさんは,電話や手紙による説明ではなく,できる限り弁護士と面談して直接に説明を受けたいとのご希望をお持ちでしたが,Bさんの希望に配慮しつつ,適宜の時機に弁護士との面談の方法による打合せを行い,弁護士の考えや示談交渉などでの作戦,今後の見通しなどをお伝えし,詳細までご理解頂けましたので,ご期待に応えることができたと考えています。

相手方保険会社からの主張が複雑であり,一見強固なものに見えたとしても,弁護士が資料を精査し,必要な主張と立証を行って対応すれば,提示額を増額して適正な解決を得ることができる場合が多くありますので,お悩みの方は,是非,弁護士にご相談下さい。

弁護士:山本直樹

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