解決事例SOLUTION EXAMPLE

2017.10.13

相続財産調査の結果,不明点が解消されて円満に遺産分割ができた事例

ご相談内容

 Sさんの母親(「被相続人」にあたります)は,成年後見開始の審判を受けており,成年後見人に就任した弁護士が母親の財産を管理していましたが,母親が亡くなり,遺産分割手続を進める必要が生じたため,当事務所に来所されました。
 Sさんには兄弟がいますが,Sさんの父親は既に亡くなっているため,相続人はSさんとその兄弟の2名となります。
 しかし,兄弟の仲は決して良いとはいえず,Sさんは相手方が母親の財産 を使い込んでいたのではないかと疑問に思って,当事務所の弁護士にどのように解決すれば良いか相談されました。

解決方法

 本件においては,被相続人であるSさんの母親の財産をどのように調査するか,出金がされていた場合にはその理由は何なのか,どのように返還を求めるかといった点が問題となりました。
 依頼を受けた当事務所の弁護士は,相続財産となる預貯金の動きを調査したところ,母親が施設に入所した時点から成年後見開始の審判を受けるまでの間に,まとまった金額の預貯金が出金されていることが判明しました。
 出金された金額から,入所中に必要となる費用等を控除したとしても,使途不明金が多いことから,当事務所の弁護士は,遺産分割協議において,使途不明金の精算を行うためにSさんの相続する金額を増やして調整を行うことを求めました。
 相手方も弁護士に依頼して,双方の弁護士が解決に向けて協議した結果,概ねSさんの希望していたとおり,当方の取得金額を増やした内容での遺産分割協議が成立し,解決することができました。

財産の調査

 遺産分割においては,被相続人が亡くなった時点での財産が相続財産となりますから,原則として,亡くなった時点の財産が判明すれば,遺産分割協議を行うことができます。  しかし,本件では,相手方が被相続人の財産を使い込んだ可能性があったことから,それ以前の預貯金の動きについても調査する必要がありました。  そこで,弁護士は,被相続人が施設に入所して自分では預貯金を出金することができなくなった時点から,相手方が被相続人の財産の管理を開始したものと考えて,それ以降の入出金を調査しました。  その結果,被相続人が施設に入所した後,預金口座からまとまった金額が出金されており,その使途が不明であったことが判明し,その精算を求めることになりました。

被相続人の財産の使い込みが考えられる場合の解決方法

 被相続人自身は,原則として自分の財産を自由に使うことができますので,被相続人が亡くなられる前に預貯金が出金されていたとしても,直ちにそれが他の人による使い込みというわけではありません。  しかし,被相続人が存命中に,他の人が勝手に被相続人の預貯金を出金した場合には,被相続人は,その時点で,勝手に引き出した人に対して,不当利得返還請求権または不法行為による損害賠償請求権を取得することになりますから,返金されないまま被相続人が亡くなった場合には,これらの被相続人の権利が,相続されることになります。  また,被相続人からの依頼を受けて,相続人が被相続人の代わりに預貯金を出金するなどして,財産の管理を行っているケースもありますが,この場合には,被相続人は,管理を行っている相続人に対して,預けている財産を返還するよう求める権利を持ちますから,被相続人が亡くなった場合には,これらの被相続人の権利が,相続されることになります。  そのため,他の相続人としては,いずれかの権利を相続して,相手方に対して主張することになります。  本件では,Sさんは,当初,相手方が無断で使い込んだのではないかと疑問を持っていましたが,当時の状況から出金に必要な暗証番号や印鑑などを使用するには被相続人の了解が必要だったと考えられること,相手方も被相続人に代わって財産を管理していたことは認めたことなどから,相手方が被相続人からの依頼によって預かっていた財産の返還を求める方法で交渉を行うことになりました。

返還を求めるべき範囲の検討

 相手方が被相続人からの依頼によって預かっていた財産について返還を求めるとしても,相手方が,被相続人からの依頼によって支払った金額や被相続人に既に返した金額は,返還を求めることはできません。  例えば,仮に被相続人から「〇〇銀行の口座から200万円を引き出して,施設の入所費用に50万円を支払ってほしい」と頼まれて実際に施設に50万円を支払っていたいた場合には,例え引き出された金額が200万円であっても,そこから50万円を引いた金額しか返還する義務はないことになります。  被相続人の財産を相続人が管理している場合には,身内同士ということもあり,このような指示があったか否か,何のために支払ったかなどといった点について,資料がほとんど残っていないケースがあります。  本件では,施設入所中の生活費用なども調査によって判明していましたので,これらの費用を除いた金額について,返還を求めることができ,交渉の結果,相手方とも合意して,裁判所の手続をとることなく解決することができました。

弁護士より一言

 相続や遺産分割に関する紛争では,被相続人が亡くなる前に被相続人の預貯金が出金されているのではないか,財産が他の相続人によって使い込まれていたのではないか,という疑問が出されるケースが見られます。
 遺産分割は,本来,被相続人が亡くなった時点での財産を遺産として分割する手続ですので,このように被相続人が亡くなる前の財産の支出について解決することは難しく,また証拠がないために立証できないというケースも多くありますが,本件では,Sさんが被相続人の財産の動きについてよく把握されており,また調査の結果,証拠も十分に集めることができました。
 逆の立場で,被相続人のためにその財産を管理する人は,例え身内同士であったとしても,預かった財産については返還を求められる可能性があることを念頭に置いて,きちんと帳簿を作成したり,領収書や必要な書類などを残してたりして,預かった財産の使い道や返還の有無を説明できるようにしておきましょう。
 このように遺産分割にあたって財産の動きに問題がないか調査したり,また例え身内であっても他の人の財産を管理したりするのは,難しい面がありますので,悩んだときにはぜひ弁護士にご相談頂ければと思います。

弁護士:山本直樹

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