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2023.09.20

コラム(弁護士山本直樹) 被害者参加制度(1)

今回は,刑事裁判の被害者参加制度の概要です。

     

    1. 1 制度の概要
       被害者参加制度は,一定の刑法犯について,被害者が刑事裁判に参加することができる制度です。
      従前の刑事裁判では,被害者は,証人として証言する場合以外は,被害者として積極的に関与する機会がありませんでした。
       また,被害者としての証言についても,捜査段階で作成された被害者の供述調書が証拠として使用されるなどして,証人尋問も行われないという場合も多く見られました(ただし,これによって被害者の証言の負担が軽減されているという側面もあります)。
      しかし,被害者参加制度により,刑事訴訟法上の「被害者参加人」としての参加が可能になりました
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    3. 2 対象事件
       被害者参加制度は,重大事件で利用されるというイメージがあるかもしれませんが,対象の刑法犯には,傷害や自動車運転過失致傷なども含まれているため,対象事件そのものは決して少なくありません。
       しかし,刑事処分が不起訴や略式請求の場合には利用することができず(ただし,略式請求された事件であっても通常事件に移行した場合は対象になります),公判請求された通常の裁判による事件が対象になりますから,大きな事件で行われるという印象になるのかもしれません。
       もっとも,刑事処分は,被害の大きさなど犯罪そのものに関する事情以外にも,前科前歴など一般的な情状を踏まえて判断されるため,比較的被害が軽微な事件でも公判請求されて犯罪被害者参加の対象となる場合があります。
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    5. 3 参加の手続
       被害者参加制度を利用する場合,被害者は,まず,検察官に対して,参加の申出を行うことになります。
       そうすると,検察官は,裁判所に対して,参加の申出があったことを通知します。
      そして,裁判所が事情を考慮して相当と認めるときは,被害者に対して参加を許可する決定を行うという流れになります。
       法律上は相当と認められることが必要とされていますが,私がこれまでに経験した被害者参加事件では,相当でないことを理由に参加が認められなかったケースはありませんでした。
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    7. 4 被害者参加制度の内容
       刑事裁判では,被告人側の証人として,今後の監督を約束する被告人の家族などが証言することがありますが,被害者参加人は,このような情状に関する証言に対して,証人尋問の時に質問をすることができます。
       また,被告人が裁判手続において反省の弁を述べることもよくありますが,被害者参加人は,このような被告人の情状に関する供述に対して,質問をすることもできます。
       そのほか,犯罪の被害者として心情に関する意見を述べること(正確には犯罪被害者制度が制定される前から存在する手続ですので,被害者参加制度とは区別されますが,同時に行われることが多いです),法律の適用や量刑について意見を述べること(いわゆる被害者論告)なども可能です。
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    9. 5 弁護士への依頼
       被害者参加は,弁護士をつけずに,被害者本人のみで行うことも可能ですが,公判廷において様々な手続を行うことになりますから,弁護士に依頼した方がスムーズに対応できます。
      また,質問や意見の内容には法律上の制限があるほか,事前に検察官との打合せも必要になりますし,実際の法廷では予想とは全く異なる展開となる場合もありますから,本人のみで対応するのは難しいと思われます。
      弁護士への依頼は,通常の方法で依頼するほかにも,財産などについて定められた条件を満たす場合には,裁判所に国選で被害者参加弁護士を選任してもらうことも可能です。
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    11. 6 公判期日までの準備
       被害者参加制度を利用する場合,まずは検察官に参加希望であることを伝える必要があります。
       通常の方法で弁護士に依頼する場合,この段階から弁護士に対応を依頼することも可能ですが,国選の場合は,参加決定後に被害者参加弁護士が選任されるため,検察官への連絡は,被害者自身が行うことになります。
       現在(令和5年9月17日時点)では,国選による被害者参加弁護士の選任を依頼する際には,それまで相談対応していた弁護士を指名するよう依頼することも可能ですので,国選の場合であっても,弁護士への相談は早期にしておいた方がよいでしょう。
       被害者参加人となった後は,各種手続の準備を進めなければなりませんが,そのために,まずは刑事裁判に提出される予定の証拠の内容を確認する必要があります。
       証拠を確認したら,その内容を踏まえながら,情状証人や被告人に対して何を質問したいのか,そのためにはどのような内容や順序で質問を行えばよいかを考えながら,質問案を作成することになります。
       また,被害者の心情の意見陳述や被害者論告においても,書面に基づいて行うことが一般的ですし,内容を整理して説得力のある内容とするためには,はやり文章の形で準備する方がよいですので,意見要旨などの書面を作成することが多いといえます。
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    13. 7 公判期日の対応
       このような準備作業を行いつつ,被害者参加人として,実際の公判廷に出席することになります。
      被害者参加人の場合,検察官の横または後ろの席に座ることができますが(被害者参加弁護士も同様です),傍聴席に座ることも可能です。
       私の経験では,検察官の横や後ろに座ることを希望されるケースが多いのですが,体調不良や精神的な負担が心配な場合は,弁護士が検察官の横の席で対応を行い,被害者本人は傍聴席に座るというケースもありました。
       公判期日においては,検察官や弁護人などが立証活動を行う中で,前述のように被害者としての意見を述べるなど対応を行うことになります。

     
    次回は,被害者参加の具体的な流れについて,実際の経験を踏まえて説明したいと思います。

著者情報

山本 直樹(やまもと なおき)弁護士

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