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2019.04.03

京都の裁判所と管轄について

京都府の地形

京都府は、南端は奈良県との県境から、北端日本海まで、南北に長い形状をしています。

私が学生のころに聞いた話では(真偽のほどは分かりませんが)、もともと、京都市付近は山城国であり、北部は丹波国だったのですが、明治時代に京都府を設置したとき、かつての山城国のみだと海への接続するのに他の県を通らないといけなくなるため、丹波国の地域を含めて日本海側までを含めて京都府にしたため、今の京都府の形になったそうです。

京都府がこのような形のため、裁判のときに困るのが、裁判所の管轄と、出廷の問題です。

京都府内の裁判所

京都府内には、京都地方裁判所と京都家庭裁判所(いわゆる本庁)、それぞれの支部(園部、宮津、舞鶴、福知山)、各地の簡易裁判所(京都、園部、宮津、舞鶴、福知山、伏見、右京、向日町、木津、宇治、亀岡、京丹後)があります。

これらの裁判所のうち、京都地方裁判所と京都家庭裁判所は京都市内にありますし、簡易裁判所のうち複数の裁判所が京都市内に存在しているのですが、他方で、京都地方裁判所宮津支部や舞鶴支部は、京都府の北側、それも日本海側の海岸のすぐ近くにあります。

京都市内から宮津支部に電車で行く場合には、JR西日本の直通の特急電車を使ったとしても電車に乗っている時間だけで、片道約2時間を要することになりますし、電車の本数も多いとはいえず、実際の往復では必ずといってよいほど電車待ちの時間が発生しますので、実際の所要時間は片道3時間を超える場合もあります(京都から東京まで新幹線で行くときよりも時間がかかることになります)。

裁判所の管轄

このように京都府内だけでも複数の裁判所がありますが、どの裁判所が事件の第1審の審理を担当するか(つまり管轄を有するか)については、法律によって定められていますので,実際に訴えを提起するときには、まず管轄のある裁判所がどこであるかを判断しなければなりません。

詳細は非常に長くなるので概要のみ説明しますと、例えば民事事件で金銭請求を行う場合は、地方裁判所か簡易裁判所かのいずれかが第1審の管轄を有することになります(家事事件手続法や人事訴訟法、少年法で定められた事件については家庭裁判所が管轄します)。

そして、地方裁判所と簡易裁判所の管轄については、裁判所法に規定が置かれており、原則として、訴訟の目的の価額が140万円を超えない請求に関する訴訟は簡易裁判所が管轄し、それ以外の請求や不動産に関する請求に関する訴訟は地方裁判所が管轄します。

このようにして、地方裁判所か簡易裁判所か、いずれが管轄を有するか決まったとしても、地方裁判所、簡易裁判所とも複数存在しますので、そのうちのいずれの裁判所が管轄を持つかが問題となります。

民事訴訟法では、第4条以下に管轄の規定があり,原則として、「訴えは、被告の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所の管轄に属する」とされています。そして、被告の普通裁判籍は,原則として、個人の場合は住所、法人の場合は主たる事務所又は営業所により定まります。

このように、被告の住所によって管轄が定まることが原則なのですが、第5条以降にも例外となる規定が置かれています。特に、財産権上の訴えについては義務履行地(第5条1号)、不法行為に関する訴えについては不法行為地(第5条9号)、不動産に関する訴えについては不動産の所在地(第5条12号)の裁判所が管轄を有するとの規定や、合意管轄(第11条)及び応訴管轄(第12条)は実務上でも多く見られますので注意が必要です。

裁判の負担

このようにして管轄が決まったとしても、それが遠方であればどうなるでしょうか。

ご本人で訴訟対応をされる場合には、裁判所に出廷すること自体が負担になりますし、弁護士に依頼するとしても、通常は交通費などの実費のほかに拘束時間に応じた日当の負担が発生することになります。

訴えを提起してから判決まで、事件の内容に応じて複数回の出廷が必要になりますので、裁判の負担は決して軽いものではありません。

どのように対応するべきか

取引行為などであれば、当初の契約の時点で、合意管轄を定めておく方法があります。企業が作成する契約書では通常は、裁判の管轄に関する条項が入ることになりますが、その有効性や範囲などについて争われる場合がありますので、条項の記載には注意する必要があります。

不法行為などのように、事前に契約がない事案であっても、双方が弁護士を代理人としているときには、お互いの当事者本人の負担を避けるために、提訴直前に弁護士間で管轄の合意をすることができる場合もあります。

また、裁判所が遠方になってしまった場合であっても、遅滞を避けるための移送(民事訴訟法第17条)を求めたり、電話会議システムを利用した弁論準備手続によって事実上の負担を軽減するなどの対応が考えられます。

以上のほか、相手が管轄のない裁判所に訴えを提起してきた場合には、こちらから管轄を争わなければ,その裁判所に応訴管轄が生じてしまうことになります。

おわりに

裁判の管轄は、裁判の勝敗に直結する問題とは言い難いため、紛争が生じて裁判をしなければならなくなるときまで、あまり気にされない方が多いと思います。

しかし、実際に発生する負担は決して小さいものではありませんし、管轄の問題についても各局面で適切な対応をとる必要があります。

管轄の問題は、前記のとおり、複雑な面があり、一般の方がご自身で対応するのは難しい面があると思いますが、弁護士にとっては日常的に対応している問題ですので、お悩みの際は、ぜひ当事務所にご相談ください。

特に、企業の方は、新たに契約書を作成するときだけではなく、現在使っている契約書の条項にも問題がないかどうか、改めてご確認を頂ければ幸いです。

著者情報

山本 直樹(やまもと なおき)弁護士

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